家族信託業務を始めて、まだご契約10件ほどの頃、ある介護施設で家族信託説明会をさせていただいた時でした。
一人の老夫人が『我が家の問題の相談にのって欲しい。』お声をかけてくださいました。
親戚が一人で入院しているが独身なので、兄嫁である自分がずっと身の回りの世話をしてきたのですが、自分も80代半ばになり、これ以上面倒を看るのは厳しいとのことでした。
詳しくお話を伺うと、姪御さんの中に親しい方がおられるとのことでしたので、その方ともお話させていただき、入院中の叔母と姪の間で家族信託を結ぶことになりました。
しかし、事件はその後まもなく始まったのです。
実はその姪御さんが、受託者を快く引き受けてくださったまでは良かったのですが、
いざ信託が始まると、叔母様(委託者)が入院している病院への支払いをしてくれないのです。
他のご親戚から話を聞くと、どうもその姪御さんは精神的に不安定なところがあるとのことでした。
再びご親戚の方と姪御さんを交えて話合いをしたところ、
『大切な叔母のことなので、受託者を続けたい。』とおっしゃるので、もう少し様子を見ることにしました。
しかし翌月また病院から未払いの連絡が・・・。
困りはてた私達は、当時信託契約書の作成をお願いしていた司法書士の先生へ相談しに行きました。
ところが先生から衝撃のひとことが!
『受託者をやめてもらいたければ裁判しかないですね。』
契約書の作成が目的の司法書士は、その後のご家族からのご相談に真摯に向き合うことは、少ないのかもしれません。
この問題をきっかけに私は、「本当の家族信託とは何か」について深く考えるようになったのです。
さて、仲の良いご家族にそんなことを言えるはずもなく・・・(後編に続く)