本間のコラム(1) ひとつも笑わないお父様

実例・コラム

「ひとつも笑わないお父様」

自分で言うのも何ですが、私(本間)は高齢者とお話することは得意なほうで、比較的短い時間で打ち解けます。
しかし、あるお宅のお父様は明らかに違っていました。

いつものように満面の笑みで訪問しても、お父様の反応がひとつもありません。
お母様はとても優しく迎えてくださいましたが、どんなに話題を向けても、ほとんど返事もなく、じーっと黙ったままです。
セミナーにご参加くださり、今回ご依頼いただいた娘さんも、苦笑いです。
さすがの私も、どのように家族信託をお伝えしたら良いかわからず、考えてしまいました。

しかし、しばらくして娘さんから助け舟が。
『お父さんやお母さんが認知症になったら、銀行とか止まってしまう。そうなったら困るでしょ。私にはお父さん達の治療代とか払う余裕はないから。そのために本間さんに来てもらったのよ。』と、しばらくやり取りが続き、 最後に私が『娘さんのお話を聞いてどう思われました?』とお聞きすると、お父様から衝撃のひとことが。

『娘は絶対に騙されていると思った。』と。

よくよく聞くと、お父様は銀行員から様々な詐欺等あやしい話を聞いていて、そこに娘が聞きなれない「家族信託」なるものの話を持ってきたので、一生懸命説明するほどに益々あやしく思っていたとのことでした。
私は思わず大声で笑ってしまいました。
『それはそうですよね。家族信託なんて初めて聞くことで、こんな小太りのあやしい男が訪ねてくればねぇ。』
そこで初めてお父様も少し笑ってくださいました。
一度目の訪問はそこで終了しました。

さて、二度目の訪問です。
最初は『やっぱりどうも信用できん!』からスタート。
また2時間近く世間話をして帰りました。

後日、娘さんからお電話があり、『やっと父が前向きに話を進めたいと…。』とのこと。 実はウラで娘さんが、頑なな父親に時間をかけて説得してくださったようです。

三度目の訪問の時には、お父様も笑顔で迎えてくださいました。
そして後日、公証役場へ行った際には、『今日は清水の舞台だ、緊張する。』と、震える手でご署名していただきました。

契約終了後、皆でいただいたケーキセットの味は格別でした!

私達でできることは、「家族のこれからの願いや希望を形にするためのお手伝い」なのだと、つくづく感じた件でした。
契約書を作成すること自体が目的ではなく、まして上から目線で指導的に話をするのでもなく、一件一件ご家族のもとへ出向き、家族のお話に参加させていただくことが大切で、私達が得ることもたくさんあります。
これからも、家族によりそう相談者でありたいものです。